スズメバチとアシナガバチは、私たちの生活圏に頻繁に現れる昆虫ですが、その違いを正確に理解している人は意外に少ないのではないでしょうか。見た目が似ているため混同されがちですが、実際には性格や生息場所、巣の特徴に多くの違いがあります。
本記事では、スズメバチとアシナガバチの違いを詳しく解説します。見た目や巣の形、毒性、危険性などの違いを把握して、適切に対処するためのヒントとしましょう。
スズメバチとアシナガバチ違い一覧
項目 | スズメバチ | アシナガバチ |
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分類 | スズメバチ科スズメバチ亜科 | スズメバチ科アシナガバチ亜科 |
体長 | 1.1~3.7cm | 1.1~2.6cm |
見た目の特徴 |
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飛び方 | まっすぐ飛ぶ | ふらふら飛ぶ |
性格 | 攻撃性が強いものが多い | 比較的おだやか |
活動時期 | 4~11月 | 4~11月 |
ピークの時期 | 7~10月 | 6~8月 |
巣の質感 | 硬い | 紙に似た質感 |
巣の場所 | 閉鎖的な場所 | 開放的な場所 |
毒性 | 強いものが多い | 中程度 |
スズメバチ亜科とアシナガバチ亜科
スズメバチとアシナガバチは、どちらも「ハチ目スズメバチ科」で、スズメバチ亜科とアシナガバチ亜科に分かれます。
スズメバチ | アシナガバチ |
スズメバチ科スズメバチ亜科 | スズメバチ科アシナガバチ亜科 |
代表的なスズメバチはオオスズメバチ、ヒメスズメバチ、キイロスズメバチなどです。特にオオスズメバチは巨大かつ獰猛で、強い毒性を持つことで知られています。
アシナガバチ類にはキアシナガバチ、セグロアシナガバチ、フタモンアシナガバチなどが含まれます。いずれも市街地でよく見られる種類です。
スズメバチとアシナガバチの見た目の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
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体の大きさや特徴、頭部の形状、飛び方など成虫の見た目の違いを解説します。
体の大きさの違い
スズメバチ | アシナガバチ |
1.1~3.7cm | 1.1~2.6cm |
スズメバチは一般的にアシナガバチよりも体が大きい傾向にあります。オオスズメバチなど、大型のスズメバチでは体長が4cm以上になることもあるのです。また、腹部が丸みを帯びて大型であり、アシナガバチよりもボリューム感があります。
一方でアシナガバチは体が細長く、サイズは2cm前後のものが一般的です。スズメバチよりもスリムな傾向がある点を意識しましょう。
ただし、体の大きさだけで判断するのは難しい場合もあります。他の特徴と合わせて観察することが重要です。
体の特徴の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
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スズメバチの体色は種類によって異なりますが、体の色は黒が基本で、白や黄色、オレンジの縞模様が入っている傾向にあります。縞模様が比較的はっきりしているのも特徴です。また、腹部はアシナガバチと比べると膨らんで見えます。
アシナガバチは、黄色や赤褐色の体色を持つものが多い傾向です。また、スズメバチほどはっきりとした縞模様ではなく、柔らかい色合いのものが多くみられます。
頭部の形状の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
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スズメバチの頭部は、丸みを帯びた形状で、全体的に力強い印象を与えます。特に大顎が発達しており、獲物を捕らえるのに適しています。
一方、アシナガバチの頭部は細長く、スズメバチほどの力強さはありません。頭部の形状を見ることで、どちらのハチなのかを判別しやすくなります。
飛び方の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
まっすぐ飛ぶ | ふらふら飛ぶ |
スズメバチは直線的で素早く飛びますが、アシナガバチは足をぶら下げてふらふらと飛ぶ傾向があります。飛行中にもよく見えるほど強く羽ばたきます。
アシナガバチの後ろ脚はその名のとおり長く、特徴的な要素の一つです。スズメバチと見分ける際の参考として有効な判断材料になるでしょう。
性格・攻撃性の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
攻撃性が強いものが多い | 比較的おだやか |
スズメバチ亜科にはさまざまな種類がいるため、攻撃性も多様です。巣に近づくだけでも外敵とみなして攻撃をしかけるオオスズメバチやキイロスズメバチもいれば、おだやかなクロスズメバチなどもいます。
アシナガバチは積極的に攻撃をしかけることはありませんが、巣を刺激されると攻撃に転じる傾向があります。
なお、追跡距離はスズメバチの方が長く、種類によっては40mほど追いかけてくることがあります。アシナガバチは巣の周辺3mほどを警戒して飛び回っていますが、追跡してまで攻撃することはないようです。
活動時期の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
4~11月 (ピークは7~10月) |
4~11月 (ピークは6~8月) |
スズメバチもアシナガバチも、4月頃に女王蜂が冬眠から目覚めて巣作りを開始します。その後、働き蜂が羽化すると巣が大きくなっていきます。
ピークを迎える時期には違いがあり、スズメバチは7~10月と長く、アシナガバチは6~8月が目安です。
スズメバチとアシナガバチの巣の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
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スズメバチとアシナガバチの巣にも、多くの違いがあります。巣の形状や場所、使用する素材に注目すると、それぞれの特徴を理解しやすくなるでしょう。
巣の形状の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
とっくり型・提灯型・球型 | 傘のような形 |
スズメバチの巣は初期段階ではとっくり型や提灯型をしている傾向にあります。その後、球のような形になっていきます。
アシナガバチの巣は傘のような形をしており、六角形の育房が外側からでも見えるのが特徴です。
巣材の違い
スズメバチ | アシナガバチ |
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スズメバチは、樹皮や枯れ木を噛み砕き、唾液と混ぜて巣材を作ります。硬い質感に仕上がるのが特徴です。巣が球体になると、マーブル模様や貝殻模様などが目立つようになります。
アシナガバチは植物の繊維と唾液を混ぜて、紙のような質感の巣を作ります。灰色や茶色がかった灰色のものが多い傾向です。
巣のサイズの違い
スズメバチ | アシナガバチ |
20~80cm | 10~20cm |
スズメバチの巣は大型のものが多く、バスケットボールほどの大きさになることが少なくありません。キイロスズメバチの巣の場合は、最大で60~80cmほどまで肥大することがあります。
アシナガバチの巣は比較的小さく、直径10~20cm程度のものが一般的です。規模が小さいため、スズメバチの巣よりも簡単に撤去できる傾向にあります。
巣作り場所の違い
スズメバチは閉鎖的な場所に巣を作ります。土の中や木のうろ、屋根裏や床下などが代表的です。巣が隠れた場所にあることが多く、気づかずに近づいてしまうケースが少なくありません。
一方、アシナガバチの巣は開放的な場所に見られます。民家の壁や軒下などが代表的です。しかし、小さい巣を作れるため、室外機の中などのやや閉鎖的な場所を選ぶこともあります。
スズメバチとアシナガバチの毒性の違い
毒の種類 | 作用 | スズメバチ | アシナガバチ |
ヒスタミン | 血管拡張、腫れ、発熱 | 〇 | 〇 |
セロトニン | 強い痛み | 〇 | 〇 |
カテコールアミン | 痛み、神経興奮 | 〇 | × |
アセチルコリン | 強い痛み、神経興奮 | 〇 | × |
ハチ毒キニン | ―(痛みに作用する可能性) | 〇 | 〇 |
マストパラン | 肥満細胞の破壊 | 〇 | × |
ホスホリパーゼA1 | 細胞膜の破壊(アレルゲン) | 〇 | × |
ヒアルウロニダーゼ | 毒の浸透促進 | 〇 | 〇 |
アンチゲン5 | ―(アレルゲン) | 〇 | 〇 |
プロテアーゼ | タンパク質の分解 | 〇 | × |
マンダラトキシン | 神経毒 | △ | × |
スズメバチの中で強い毒を持っているのは、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、チャイロスズメバチ、モンスズメバチなどです。多用な成分を含む毒のカクテルを持っているのが特徴で、刺されると重症化するリスクが高いといえます。
その中でも、オオスズメバチはマンダラトキシンという独自の神経毒を持っているため、1回さされるだけでも、めまいや呼吸困難を引き起こす恐れがあります。
アシナガバチの毒はスズメバチと比べれば弱いものの、2回刺されたときにはアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。
また、スズメバチとアシナガバチで共通している毒の成分にも注目です。どちらかに1度刺されたことがあれば、体内の抗体が反応してアナフィラキシーショックを引き起こす恐れがあります。
どちらも危険な蜂であることに変わりはない
スズメバチもアシナガバチも縞模様を持つものが多い種類です。スズメバチは比較的大きく、アシナガバチは名前の通り脚が長いことが、わかりやすい見た目の違いといえます。巣の形状は大きく異なっているため、判断しやすいでしょう。
アシナガバチの方が攻撃性や毒性が低いことがわかりましたが、それでも危険な蜂であることに変わりはありません。巣を刺激すれば集団で襲ってくる可能性があります。スズメバチもアシナガバチも人の生活圏に出没しやすいため、注意が必要です。
巣が大きくなっている場合は働き蜂が多く危険性が高いため、近づかないようにしましょう。駆除が必要な場合は、プロに相談することをおすすめします。