一般的に「蜂の巣」といえば、ハニカム構造のミツバチの巣や、球状のスズメバチの巣をイメージする方が多いのではないでしょうか。実は、蜂の種類によって巣の形状や作り方、巣を作る目的は異なります。つまり、巣を見ればどの種類の蜂が棲んでいるのか分かるということです。
そこで本記事では、蜂が巣を作る方法や素材、構造の特徴などについて、蜂の種類ごとに詳しく解説します。中には近づいてはいけない危険な蜂もいるので、そのような蜂の巣の特徴をぜひ知っておきましょう。
蜂の巣の作り方の基本
蜂は種類ごとに異なる特徴の巣を作りますが、巣を作る目的はある程度共通しています。それは「棲むために安全な場所を確保する」ということです。
しかし、巣作りに必要な材料や、巣の構造は蜂の種類によって異なります。ここではそれぞれの蜂の巣について、材料と構造をまとめました。
蜂の巣作りに必要な材料
蜂は種類によって適した材料を選び、巣を作ります。蜂の巣の主な材料は次のとおりです。
蜂の種類 | 巣材 |
ミツバチ | 蜜ろう(働き蜂から分泌される物質) |
スズメバチ | 樹木の繊維と唾液を混ぜたもの |
アシナガバチ | 樹木の繊維と唾液を混ぜたもの |
ツチバチ | 土と植物の繊維を混ぜたもの |
ドロバチ | 土や泥 |
ミツバチは自ら分泌する「蜜ろう」と呼ばれる物質を使い、巣を形成します。スズメバチやアシナガバチは樹木の繊維を利用して紙のような素材を作ります。ツチバチやドロバチはその名のとおり、土や泥から巣を作ることが特徴です。
蜂の巣の構造と特徴
蜂の巣は、種類ごとに次のような構造をしています。
蜂の種類 | 巣の構造・形 |
ミツバチ | 六角形のハニカム構造 |
スズメバチ | 層が重なった球形 |
アシナガバチ | 六角形の穴が多数あり、お椀を逆さまにしたような形 |
ツチバチ | 球状に近い形 |
ドロバチ | 土や泥の塊 |
ミツバチの巣は、六角形の巣穴が結合した「ハニカム構造」と呼ばれる構造です。この構造にすることで、少ない材料でも優れた強度の巣になります。
スズメバチの巣は球体であることが多く、マーブル模様のような層になっています。アシナガバチの巣には、六角形の穴が多数あり、お椀をひっくり返したような形状です。
ツチバチは、土の中に球状かそれに近い形状の小さな巣を作ります。ドロバチの巣は、一見すると土や泥の塊のような形をしています。
蜂の種類ごとの巣作りの違い
ここからは、代表的な蜂の種類ごとに巣の特徴を解説します。
ミツバチの巣
巣の素材 | 蜜ろう(働き蜂から分泌される物質) |
巣の形状 | 六角形のハニカム構造 |
ミツバチは、働き蜂が分泌する蜜ろうを使い、「部屋」を作っていきます。巣の構造は強度に優れた六角形のハニカム構造で、板状の巣が垂直に垂れ下がった形です。巣の中では幼虫やさなぎを育成したり、蜂蜜を貯蔵したりしています。
スズメバチの巣
巣の素材 | 樹木の繊維と唾液を混ぜたもの |
巣の形状 | 層が重なった球形 |
スズメバチの巣は樹木の繊維をかみ砕いて唾液と混ぜ合わせた、紙のような素材でできています。マーブル模様が見える球形で、巣の内部には複数の階層があり、女王蜂が産卵する部屋や幼虫を育てる部屋が確保されています。
スズメバチの巣の規模は特に夏から秋にかけて拡大し、活動も活発になります。
アシナガバチの巣
巣の素材 | 樹木の繊維と唾液を混ぜたもの |
巣の形状 | 六角形の穴が多数あり、お椀を逆さまにしたような形 |
アシナガバチの巣の材料はスズメバチと似ています。しかし、構造はより開けた形で巣穴が剥き出しになっています。
またスズメバチよりと比べて、アシナガバチの方が都市部や民家の周辺に巣を作りやすいといわれています。
ツチバチの巣
巣の素材 | 土と植物の繊維を混ぜたもの |
巣の形状 | 球状に近い形 |
ツチバチの巣は、他の蜂と比べてやや特殊です。地表から数センチ程度の深さにトンネルのような穴を掘り、幼虫を育てるための部屋を作ります。ツチバチは主に単独で行動するため、小規模な巣を作ります。
ドロバチの巣
巣の素材 | 土や泥 |
巣の形状 | 土や泥の塊 |
ドロバチは土や泥を使い、壁や軒下、木材の空洞などの場所に巣を形成します。形状はただの土や泥の塊のように見えるため、蜂の巣だと気づかないケースも多いようです。
蜂が巣を作る目的
蜂が巣を作る目的は、単に雨風をしのぐ住処の確保だけではありません。外敵から身を守りつつ、安定した環境で次世代を育てるために、蜂にとって巣は欠かせない場所です。巣の中で女王蜂が卵を産んだ後、働き蜂が幼虫を育てます。
また、食糧を貯蔵する役割もあります。特にミツバチは、巣の中に蜂蜜や花粉を貯蔵して冬を越す準備をします。食糧は群れ全体の生命維持に直結しており、巣が崩壊すればコロニー全体が存続の危機に陥ります。
蜂とその巣が環境に与える影響
蜂の行動は、植物や他の生物にも影響を与えています。特にミツバチは植物の受粉を担う重要な存在であり、果物や野菜、花などの生育を支える役割を果たしています。
スズメバチやアシナガバチは野菜や花などを食べるケムシやアオムシなどを捕食し、害虫の繁殖を抑えてくれます。農作物や草花への被害を軽減している点で、重要な役割を担っているといえるでしょう。
このように、人にとっては危険とされることの多い蜂も、自然界では一定の役割を果たしており、単純に排除すべき存在とは言い切れません。
人工的に蜂の巣を作ることはできる?
巣自体を作ることはできませんが、巣の場所を提供することは可能です。養蜂家はセイヨウミツバチが好む環境を整えた木箱を用意し、そこに営巣してもらうことで蜂を育てています。
特に日本の伝統的な養蜂では、「重箱式巣箱」と呼ばれる構造の巣箱がよく使われています。作り方は比較的シンプルです。木材で複数段の箱を組み立て、下部にはミツバチが出入りするための「巣門」と呼ばれる小さな穴を開けます。上部に通気性を確保するためにスノコやメッシュ状の蓋を取り付けたら完成です。
巣箱を自然環境に設置することで、分蜂したミツバチの群れが巣箱に誘引される仕組みになっています。積み重ねられる構造になっているため、巣の成長に応じて箱を追加できる点が特徴です。
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蜂の種類によって巣の作り方も異なる
蜂の種類ごとに巣の材料や構造は大きく異なり、それぞれの生態に適した特徴を持っています。
ミツバチは六角形のハニカム構造を持つ板状の巣を作ります。アシナガバチの巣の部屋は同じく六角形ですが、形状はお椀型です。スズメバチの巣はマーブル模様の層が重なった球形でよく知られています。
ツチバチやドロバチは、土や泥の巣を目立たない場所に作ります。気付かないうちに蜂の巣を刺激しないように気を付けましょう。
それぞれの蜂の巣の形や特徴を知っていれば、巣を見ただけでどの蜂が生息しているか分かるようになります。中にはスズメバチやアシナガバチなど危険な蜂もいます。こうした蜂から身を守るためにも、巣の特徴を知っておくと役立つでしょう。