蜂が食べるものは、蜂の種類によって大きく異なります。ミツバチのように蜜や花粉を主食とする蜂がいる一方で、スズメバチやアシナガバチなど肉食性を持ち昆虫を捕食する蜂もいます。また、好みの花の蜜があったり、植物の葉を切り取って利用するユニークな蜂がいたりなど、特性もさまざまです。
本記事ではミツバチやスズメバチ、アシナガバチ、クマバチ、ハキリバチといった代表的な蜂たちの食性や行動について、詳しく解説します。
ミツバチが好む食べ物
「蜂」と聞くと、花の蜜を吸うミツバチの姿を想像する方も多いのではないでしょうか。イメージのとおり、ミツバチは花から蜜や花粉を集める習性があります。
ミツバチにとっては、集めた蜜や蜜で作ったはちみつ、花粉が主な食料となります。
蜜(ネクター)
ミツバチにとって特に重要な食べ物は花の蜜(ネクター)です。花の蜜の主成分は、白砂糖と同じショ糖です。エネルギー源として活用される、いわばミツバチの主食といえるでしょう。
ミツバチは集めた花の蜜を体内の「蜜胃」に取り込み、酵素を加えることでショ糖をブドウ糖と果糖に分解します。この過程を経て、ビタミンやミネラル、アミノ酸を豊富に含む栄養価の高いはちみつが作られます。
はちみつは、主に冬場など花が少ない季節の貴重な保存食として利用されます。
花粉
花粉はミツバチにとってタンパク質や脂肪、ビタミン、ミネラルなどを補う重要な栄養源です。花の蜜やはちみつが主食なら、花粉はおかずのような役割を果たしているといえるでしょう。
特に、幼虫の成長にはタンパク質が不可欠なため、花粉はミツバチにとって欠かせない食料です。
働きバチは、体に付着した花粉を後ろ脚の「花粉かご」に集め、「花粉だんご」にして巣へ持ち帰ります。その後花粉は働きバチにより噛み砕かれ、巣房に押し込められます。唾液と混ざることで醗酵された花粉は「ビーブレッド(蜂パン)」と呼ばれる保存食になります。
ビーブレッド(蜂パン)は、栄養価が非常に高く、幼虫や働きバチの重要な食料源です。蜂蜜と同様に人間の食用にも適しており、「天然のスーパーフード」と呼ばれることもあります。
スズメバチが好む食べ物
スズメバチは、肉食性と雑食性をあわせ持つ蜂であり、その食性は非常に多様です。獲物を狩るだけでなく、樹液などの甘いものも好み、効率的に栄養を取り入れながら活動しています。
スズメバチの代表的な食べ物について解説します。
他の昆虫(ハエ、バッタ、クモなど)
スズメバチは雑食性ですが、特に幼虫の間はタンパク質を必要とします。そのため、スズメバチの幼虫にとっての主な食料は、ハエやバッタ、クモなどの他の昆虫です。トンボや蝶の幼虫なども捕食対象となり、同じ蜂であるミツバチを襲うこともあります。
捕らえた獲物は、そのまま幼虫に与えられるわけではありません。働き蜂は獲物をその場で細かく噛み砕き、「肉団子」にまとめて巣へ運びます。幼虫に与えるときは、さらに小さく嚙み砕いて、口移しで与えます。
幼虫は、この動物性タンパク質を豊富に含む肉団子を摂取し、成長していきます。
樹液や果実の汁
幼虫と異なり、成虫のスズメバチが肉を直接食べることはほとんどありません。狩りによって得た獲物は幼虫に与えられ、成虫自身は、幼虫から分泌される栄養価の高い「だ液」を主なエネルギー源としています。加えて、樹液や果実の汁といった植物由来の甘い液体も、成虫にとって貴重なエネルギー源です。
特に夏から秋にかけては、樹液のにじむ木や熟した果物に群がる姿がよく見られます。
アシナガバチが好む食べ物
アシナガバチも肉食性と植物食性を持つ蜂であり、幼虫と成虫で食べるものがやや異なります。幼虫には昆虫などのタンパク質が与えられますが、成虫になると花の蜜や樹液を摂取することもあります。
イモムシやアブラムシ
アシナガバチは、街路樹や植木などにつくイモムシやアブラムシなどの小型の昆虫を好んで捕食します。 昆虫は栄養価が高く、幼虫の成長に適しているためです。
スズメバチ同様、捕獲した獲物は「肉団子」にして巣に持ち帰ります。幼虫は、小さく噛み砕かれた肉団子を与えられ成長していきます。
花の蜜や果汁
アシナガバチも成虫になると昆虫等は食べません。幼虫の出す「だ液」を主な栄養源としており、甘みのある花の蜜や樹液、果実の汁を摂取することもあります。
特に夏から秋にかけては、花や熟した果物の周りで蜜や汁を吸うアシナガバチの姿を見かけることが多くなるでしょう。
ミツバチやクマバチと違い花粉を集めることはないため、植物の受粉の役割は担っていません。
クマバチが好む食べ物
クマバチは、大型で力強い体つきをしていますが、その食性は非常におだやかです。完全な草食性であり、主に花の蜜や花粉など植物由来の栄養を摂取して生活しています。
花の蜜
クマバチの主な食料は花の蜜です。サクラやツツジなどさまざまな花を訪れますが、特にフジの花を好む傾向があります。
クマバチは体が大きく、また蜜を吸う口吻(こうふん)が短いため、花の奥深くにある蜜はうまく吸えません。そこで、蜜まで届かない花に対しては、花の横に穴を開けて直接蜜を吸い取ります。
この方法は花粉が体につかないため、植物にとっては受粉の助けにはなりません。そのため、クマバチのこうした蜜の採取方法は「盗蜜(とうみつ)」とも呼ばれています。
効率的に糖分を摂取し、飛行や活動に必要なエネルギーを確保しています。
花粉
クマバチの主なエネルギー源は花の蜜ですが、花粉を食べることもあります。特に幼虫の育成には花粉が欠かせません。
クマバチは木の幹や枝、建物の柱などに穴をあけて巣を作ります。巣の中に集めた花粉と蜜を混ぜた「花粉団子」を用意し、その上に産卵します。孵化した幼虫は花粉を食べながら成長していきます。
ハキリバチの特性と好む食べ物
蜂の中でも特に興味深いのが「ハキリバチ(リーフカッタービー)」と呼ばれる種類です。その名のとおり、葉を切り取る独特の行動で知られる蜂です。主な食料は花の蜜や花粉であり、葉を食べるわけではありません。
ハキリバチの食性や生態を詳しく解説します。
ハキリバチの食性と行動
ハキリバチの幼虫は花粉と蜜を混ぜた花粉団子を餌に成長します。一方成虫は、主に花の蜜を摂取することでエネルギーを補っています。
ハキリバチは、植物の葉を切り取る行動で知られていますが、葉を食べるわけではありません。葉は、いわば巣の内装材です。
切り取った葉は巣の材料になる
前述したとおり、切り取った葉は餌ではなく巣の材料として使われます。
ハキリバチは竹筒など筒状の場所に巣を作り、内側に切り取った植物の葉を葉巻状に丸めて置きます。このように葉を活用して作った「部屋」の中に花粉団子を置き、産卵します。
葉そのものを食べるわけではなく、幼虫の成長に必要な環境を整えるために葉が利用されているということです。
巣作りに使われる葉はさまざまですが、特にバラ科やクズといった薄くて柔らかい葉を好むことが多いようです。
ハキリバチの生態と役割
ハキリバチは花を訪れる際に自然と花粉を運ぶため、ポリネーター(花粉媒介者)植物の受粉にも貢献している存在です。
日本では「オオハキリバチ」や「ズグロハキリバチ」、「キホリハナバチ」などの種類が見られます。それぞれが好む巣の環境や植物は異なりますが、いずれも生態系の維持に欠かせない重要な役割を担っている蜂といえるでしょう。
蜂が食べるものは種類や成長過程で異なる
蜂が食べる食べ物は、種類や役割によって大きく異なります。
ミツバチやクマバチが植物の蜜や花粉を集めるのに対し、スズメバチやアシナガバチは肉食性を持ち、幼虫は昆虫を捕食します。また、ハキリバチのように植物の葉を利用する蜂がいることも興味深いポイントです。
それぞれの食性や行動は、植物の受粉や蜂の繁殖など、自然界において重要な役割を果たしています。蜂の生態を理解することで、自然との共存や環境保護について考えるきっかけになりますね。