蜂による刺傷事故は日本各地で毎年多数報告されており、中でもスズメバチやアシナガバチによる被害が顕著です。特に蜂の活動が活発になる夏から秋にかけて、発生件数が増加する傾向にあります。
本記事では、蜂による事故の実例を8件紹介します。それぞれの原因や防止策について詳しく解説するので、蜂の事故を防止するためにもぜひご一読ください。
蜂による事故のさまざまな事例
蜂の被害は、さまざまなシチュエーションで発生しています。実際に起きた事故事例を通して、蜂による危険について紹介します。
1. 草刈り作業中の刺傷事故
5名の作業者が、刈払機による草刈り作業をしているときに発生したハチ刺され事故です。
午前中、作業者AとBがアシナガバチに左手首を刺されたものの、軽度の腫れだったため作業を継続しました。そして休憩後、作業者Cも左手首をアシナガバチに刺されてしまいます。
Cはアンモニア水を塗布したにもかかわらず痛みが引かず、川の中洲で刺された箇所を冷やしている最中に突然意識を失いました。他の作業者がすぐに救助に向かい、救急搬送したことで、幸い命に別状はありませんでした。
当時は半袖で腕を露出したまま作業をしていたとのことです。蜂刺されの可能性がある場所で作業する際は、長袖の作業着や軍手を着用するなど、できる限り肌が隠れるような服装をすることが大切です。
また、気になる症状が出た際は迷わず医療機関を受診、場合によっては救急車を呼ぶようにしましょう。
2. 下草刈り中の死亡事故
森林整備の現場で、下草刈り作業中にムモンホソアシナガバチ(通称:ササバチ)に刺され、作業者がアナフィラキシーショックにより死亡するという痛ましい事故が発生しました。
作業中、1名が顔を刺されたものの、軽度だったため作業を継続。約15分後に体調を崩し木陰で休んでいましたが、その間に意識を失ってしまったとのことです。搬送先の病院で死亡が確認されました。
ムモンホソアシナガバチは小型で巣も目立ちにくく発見が難しいため、作業中に知らずに接近してしまったのではと考えられます。
蜂がいる可能性がある場所に赴く際、アレルギーの既往歴などの状況によってはエピペンを準備するなどの対応が求められるでしょう。
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3. 登山中の刺傷事故
奥秩父・豆焼沢において、日本山岳会の80歳の会員がクロスズメバチに刺され、アナフィラキシーショックにより死亡する事故が発生しました。アナフィラキシーショックを引き起こすリスクファクター(ある病気や問題、または事態を発生させる可能性を高める要因)は次の3点ありますが、会員は3つの因子すべてが当てはまっていたということです。
- 高齢
- 前回の蜂刺されから1年以内
- 前回の蜂刺されで何らかの全身反応があった
たとえハチ刺されの既往歴がなくても、一度に多数刺されるとショック症状を起こすリスクがあります。特にリスクの高い人や未整備の登山道を行く場合には、「エピペン」の携行が重要といえるでしょう。
また、クロスズメバチは枯葉が堆積した地面に巣を作るため、気づかずに巣を踏んでしまう危険があります。登山者はハチの危険性を正しく認識し、適切な予防と対応の準備が必要です。
4. 害虫駆除業者の死亡事故
千葉県館山市で50代の害虫駆除業者が、オオスズメバチの巣を探している最中に耳と背中を刺され死亡するという痛ましい事故が発生しました。
被害者は白色の防護服と「胴長」と呼ばれる長靴を着用しており、胸や腹部も二重に保護されていました。それでも被害を防ぎきれなかった点が特筆されます。
専門家によれば、防護服により完全防備している業者がハチ刺されで死亡するケースは、稀だといいます。たとえ専門的な防護装備を着用していても安全を過信せず、特にスズメバチが攻撃的になる季節には細心の注意を払う必要があるといえるでしょう。
専門家であっても油断できないリスクがあることを認識し、蜂の生態を踏まえた慎重な作業が求められます。
5. 鉄道沿線の草刈り作業中のスズメバチ刺傷事故
10月中旬、鉄道沿線の土手で草刈り作業中にスズメバチが飛び出し、作業者3名が刺される事故が発生しました。このうち1名はその場で失神し、搬送後約2時間で死亡が確認されました。
主な原因は、作業中にハチの巣を刺激してしまったことだと考えられます。夏から秋にかけては蜂の活動が最盛期であり、事故当時の10月頃は蜂の防衛本能も強まっている時期でした。また、袖や腕まくりをして肌を露出していたことも問題点として挙げられます。
このような事故を防ぐためには、作業前にハチの巣の確認と駆除を行うことが重要です。また、スズメバチは黒色に攻撃性を示しやすいため、白や黄色の明るい服装を選び、長袖・長ズボン・長靴・つばの広い帽子を着用して肌の露出を避けた方が良いでしょう。
6. マラソン大会中の集団刺傷事故
9月下旬、高校生の駅伝練習中に20人以上がスズメバチに刺され、翌日の大会開催が中止となった例もあります。刺したのはキイロスズメバチであり、繁殖シーズンであるこの時期は特に攻撃的になっていた可能性があるとのことです。
多くの選手が連続して通過する際の振動や音がスズメバチを刺激し、集団攻撃を引き起こしたと考えられています。
事故を防ぐためには、コース設定時に専門的な視点でハチの巣の有無を確認することが重要となるでしょう。
7.公園での作業中の刺傷事故
公道脇で草刈機を使った作業を行っていた際に起きた刺傷事故です。作業員の1人が草刈り作業中に左腕を刺されましたが、市販薬を塗りそのまま作業を続けました。
3時間後に次は右腕を刺されたため、同様に市販薬を塗る処置を施します。しかし、せきや嘔吐の症状が出るなど容体が急変し救急搬送、病院で死亡が確認されました。
死因はアナフィラキシーショックです。刈払機のエンジン音のせいで近くに蜂がいることに気づけなかったこと、また最初に蜂に刺された段階で医師の診察を受けなかったことが起因していると考えられます。
蜂に刺された際は自己判断だけでなく、少しでも不安がある場合は速やかに受診することが重要だといえます。
8. 高山トレイルイベント中の刺傷事故
岐阜県高山市で開催された高山トレイルのイベント中、選手42人がスズメバチに刺される事故が発生しました。競技中に蜂の巣付近を通過したことで蜂が攻撃体制に入り、集団刺傷が引き起こされたとみられます。
11人が救急搬送されましたが、幸い全員が命に別状はありませんでした。
イベント運営において、コース設定や事前確認の徹底、さらには応急処置のための医療スタッフの配置を検討する必要性が浮き彫りになった事例です。
蜂の事故が起こりやすい時期
紹介した複数の蜂刺され事故からも分かるように、蜂による事故は夏から秋にかけて多発する傾向があります。特に8月から10月頃は蜂の巣が成長し、蜂の活動が最も活発になる時期です。
中でもスズメバチはこの時期に攻撃性が高まり、人間や動物に対して威嚇行動や刺傷事故を引き起こすリスクが増加します。また、巣が一見して見つけられないような場所にあるために意図せず近づいてしまい、事故が発生するケースも少なくありません。
草むらや山の中を歩く時は、特に周囲に気をつけましょう。また、万が一の事態に備えて、蜂に刺された際の応急処置方法もおさえておくのがおすすめです。
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蜂による事故は、特に夏から秋にかけて多発しやすく、わずかな油断が大きなリスクにつながることがあります。
今回紹介した事例からもわかるように、蜂の巣の発見が難しい場所や蜂の活動が活発な時期は、刺傷事故が発生する危険性が高まります。草むらや森などを歩く際は、蜂や蜂の巣がある可能性を踏まえて、蜂を刺激しないように注意を払いましょう。
また、刺された場合の適切な対処法を知っておくなど、万が一に備えた準備も欠かせません。アナフィラキシーショックのリスクがある場合は、エピペンを用意しておくことも検討したいところです。
蜂の生態とリスクを正しく理解し、日ごろから十分な対策を心がけることで、安全な環境づくりにつなげましょう。