蜂に刺された際の症状は人によって大きく異なります。軽いかゆみや腫れで済む場合もあれば、アレルギー反応によって命に関わるケースもあります。刺された直後は軽い症状でも、数分~数時間後に重症化するケースもあるため注意が必要です。
本記事では、蜂に刺されたときの症状を軽症と重症に分けて詳しく解説します。中盤では重症化につながるアナフィラキシーショックのメカニズム、後半では稀な症状と蜂の種類別の毒も解説しているので、ぜひ参考にしてください。
蜂に刺されたときの軽症の症状

蜂に刺されたときの軽症は、蜂毒そのものによる局所症状を指します。具体的には次のとおりです。
- 痛み
- 痒み(かゆみ)
- 腫れ
- しこり
痛み・痒み
蜂毒には痛みや痒みを引き起こす、ヒスタミン・セロトニン・カテコールアミン・アセチルコリンなどの毒が含まれています。また、蜂毒特有のハチ毒キニンも痛みに作用する可能性があります。
痛みや痒みは刺された直後から1日程度で引くことの多い症状です。痛みが強い場合は、抗ヒスタミン成分やステロイド成分の含まれる軟膏を塗布することで緩和されます。応急措置の詳細は次の記事をご覧ください。

腫れ
蜂毒に含まれるヒスタミンが腫れを引き起こします。刺された場所から直径数センチまで腫れることがあるでしょう。ヒスタミンには発熱作用もあるため、局所的に熱を持つこともあります。なお、腫れは通常、数日程度で落ち着きます。
気を付けたいのは10cm程度腫れた場合と刺された場所とは異なる部位(粘膜等)の腫れです。蜂毒そのものによる腫れだけでなく、アレルギー反応による腫れも考えられます。この場合、症状が軽くてもハチアレルギーになった可能性があるため、病院で検査することをおすすめします。
しこり
しこりもアレルギー反応の可能性があります。しこりの正体がアレルギー反応による結節性痒疹だった場合、1年以上治らないことも少なくありません。結節性痒疹は痒みを伴うため、かきむしることで皮膚が損傷したり、色素沈着を引き起こしたりする可能性があります。皮膚科を受診し、早期に治療することが大切です。
蜂に刺されたときの重症の症状

蜂に刺されたときの重症は、基本的にはハチアレルギーが原因のアナフィラキシーショックによる全身症状です。次のような症状があらわれます。
- 蕁麻疹(じんましん)
- 呼吸困難
- 吐き気
- めまい
- 動悸
- 発熱
- 腹痛
- 意識障害
めまいや吐き気、頭がぼんやりする感覚がある場合、軽度に思えても短時間で悪化して意識を失う恐れがあるため、全身症状の可能性があれば、すぐに救急車を呼びましょう。実際に、蜂に刺されてから15分で気分が悪くなり、30分で自発呼吸が停止、その後に死亡した事故事例もあります。
なお、アナフィラキシーショックを引き起こすハチアレルギーは、過去に蜂に刺されたことがある人が注意すべきものです。次でアナフィラキシーショックのメカニズムを詳しく解説します。
アナフィラキシーショックのメカニズム

アナフィラキシーショックは蜂刺されだけでなく、食べ物や衣服の素材などに対するアレルギー反応でも引き起こされる症状です。特定の物質(アレルゲン)に対して免疫が過剰に反応することで生じます。以下で、アナフィラキシーショックのメカニズムを具体的に解説します。
通常の免疫反応
通常の免疫反応では、細菌やウイルス、寄生虫などの人にとって有害なものを攻撃して排除しています。有害なものが入ってきたときに攻撃する武器は「Ig(アイジー)」というタンパク質です。Igには、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体、IgM抗体という種類があります。アレルギー反応に関係するのは、IgE抗体です。
IgE抗体は寄生虫の排除に役立つ抗体で、皮膚や粘膜の細胞表面にくっつきます。有害なものをキャッチ(結合)して排除するためです。ただし、IgE抗体のはたらきには副作用的なものがあります。IgE抗体が有害なものと結合すると、血管拡張・腫れ・発熱・痒みに作用するヒスタミンなどの化学物質を放出する点です。
有害・無害の判定エラー
免疫系が本来は無害な物質を有害と判定することがあります。この有害判定された物質がアレルゲンです。アレルゲンが体内に入り込むと、免疫系は有害なものと誤認しているため、IgE抗体を作り出します。細胞表面にくっついたIgE抗体がアレルゲンに対する攻撃(結合)を開始するメカニズムです。
ハチアレルギーは1度刺された後になる
一度も体内に入っていない物質がアレルゲンとして判定されることはありません。つまり、蜂毒のアレルギー(ハチアレルギー)になるのは、1度刺されて蜂毒が体内に入った後です。このときに、蜂毒がアレルゲンとして判定されると、次に刺されたときにはIgE抗体が作り出されるようになります。
IgE抗体によるヒスタミン等の放出
IgE抗体がアレルゲンと結合すると、細胞がヒスタミンなどの化学物質を放出します。この化学物質の中には人にとってマイナスな症状を引き起こすものが含まれているため、次のような症状が起こります。
- くしゃみ、鼻水
- 痒み
- 蕁麻疹
- 粘膜の腫れ
- 呼吸器系の障害
- 血圧低下
- 腹痛、吐き気
花粉症の人がくしゃみや鼻水、目のかゆみに悩まされるのも、このIgE抗体の作用によるものです。
全身症状(アナフィラキシーショック)へ発展
アレルギー反応が全身に及ぶ状態がアナフィラキシーショックです。皮膚・粘膜・呼吸器・多数の臓器に影響し、次のような症状に発展します。
- 嘔吐
- 意識消失
- 自発呼吸の停止
- 心停止
- 多臓器不全
アナフィラキシーショックの症状があらわれる時間はアレルゲンによって異なりますが、ハチアレルギーでは心停止発現までの時間が15分とされています。迅速な対処が必要です。
アナフィラキシーショックにはエピペンで応急措置
エピペンは、アナフィラキシーショックの症状を緩和するためのアドレナリン自己注射薬です。重篤なアレルギー症状を引き起こす可能性がある人なら、医師の処方によって購入できます。
ただし、エピペンは症状を緩和するためのもので、解毒するためのものではありません。アナフィラキシーショックによる急激な血圧低下や呼吸困難を回避するためのものです。具体的には、血管を収縮させて血圧を上昇させる、気管支を拡張させて気道を確保するという作用をもちます。
つまり、治療のためのものではなく、医療機関で治療を受けて回復するための時間を確保するもの、という位置づけです。あくまでも応急措置なので、エピペン使用後は必ず病院で治療を受けましょう。
蜂毒による重症化の稀な事例

重症化するのはハチアレルギーの人がほとんどですが、稀にハチアレルギーがない人でも重症化することがあります。毒性の強い蜂に多数刺されるケースです。具体例を紹介します。
大群に襲われたことによる意識消失と多臓器不全
日本透析医学会の透析会誌では、Vespa mandarinia(オオスズメバチ)の大群に襲われた80歳男性の症例と救命の過程を記しています。
事故が起きたのは2000年9月24日で、80歳男性は全身30カ所を刺されました。救急外来に搬送後、入院したときには意識が回復しまし、呼吸困難は認められませんでした。しかし、入院中に急性腎不全、肝機能障害、急性膵炎を併発し、た多臓器不全と診断されます。
病院では、多臓器不全になる前の段階でアナフィラキシーショックの可能性を考えて治療をしていたため、この多臓器不全はアナフィラキシーショックによるものではありません。考察では、蜂毒による血圧降下作用や細胞破壊性などが内臓に障害をもたらした可能性が示されています。なお、血液透析によって男性は回復しました。
蜂の種類別の毒性

蜂の種類によって持っている毒に違いがあります。毒性の強いオオスズメバチ・キイロスズメバチ・アシナガバチの毒を比較した表をご覧ください。
毒の種類 | 作用 | オオスズメバチ | キイロスズメバチ | アシナガバチ |
---|---|---|---|---|
ヒスタミン | 血管拡張 腫れ 発熱 痒み | 〇 | 〇 | 〇 |
セロトニン | 強い痛み | 〇 | 〇 | 〇 |
カテコールアミン | 痛み 神経興奮 | 〇 | 〇 | × |
アセチルコリン | 強い痛み 神経興奮 | 〇 | 〇 | × |
ハチ毒キニン | ― (痛みに作用する可能性) | 〇 | 〇 | 〇 |
マストパラン | 肥満細胞の破壊 | 〇 | 〇 | × |
ホスホリパーゼA1 | 細胞膜の破壊 (アレルゲン) | 〇 | 〇 | × |
ヒアルウロニダーゼ | 毒の浸透促進 | 〇 | 〇 | 〇 |
アンチゲン5 | ― (アレルゲン) | 〇 | 〇 | 〇 |
プロテアーゼ | タンパク質の分解 | 〇 | 〇 | × |
マンダラトキシン | 神経毒 | 〇 | × | × |
セロトニンやハチ毒キニンなどは共通していますが、アシナガバチはもっていない毒もあります。スズメバチの毒は「毒のカクテル」とも呼ばれるほど複合的です。とくに、国内最強のオオスズメバチは独自の神経毒・マンダラトキシンをもっています。強力な毒の蜂に刺されると、ハチアレルギーがない人でも体調不良になることがあります。
ただし、ハチアレルギーの人にとっては、微弱な毒性の蜂であっても安全ではありません。注目したいのは、アレルゲンと記載されているホスホリパーゼA1やアルチゲン5などです。毒性が弱くても、これらのアレルゲンが含まれていればハチアレルギーを引き起こす恐れがあります。
つまり、1回目、2回目ともに毒性の弱いミツバチやクマバチなどに刺された場合でも、1回目でハチアレルギーになっていれば、2回目で重症化する恐れがあるということです。
蜂毒は2回目以降がとくに危険

蜂に刺されたとき、刺された箇所が少なく、なおかつ1回目であれば軽症で済むことが少なくありません。しかし、1回目でハチアレルギーになっていると、2回目では微弱な毒の蜂に刺されただけでも、アナフィラキシーショックによって重症化するリスクがあります。
蜂に刺されたことがある人は、保険適用でハチアレルギーの検査を受けられます。ハチアレルギーと診断されれば、エピペンを処方してもらえるので、常備するよう心がけましょう。とくに、蜂がいる可能性の高い林や河川に近づくときは必携です。
自宅に蜂の巣が作られるなど、刺されるリスクが高いときはプロに相談してください。ハチアレルギーの場合は1匹に刺されるだけでも重症化するリスクがあるので、近づくのは危険です。安全第一で判断、対応しましょう。
