蜂刺されの事故件数は毎年数千件に及ぶとされており、死亡者が出る重大な事故も少なくありません。実際の事故例を確認することで、蜂刺されの危険性を認識しましょう。
本記事では、日本で実際に起きた蜂刺されの事故8例の詳細を解説します。後半では、事故事例を教訓とした注意点と対策も解説するので、ぜひ参考にしてください。
蜂刺されに関する8つの事故事例

蜂刺されに関する8つの事故事例を、蜂の種類・場所・被害の内容に注目して解説します。事故が起きた要因も解説しているので、ぜひ参考にしてください。
1.草刈り作業中の死傷事故
蜂の種類 | アシナガバチ |
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場所 | 河川 |
被害 | 死傷(死亡者数:1人) |
アシナガバチに刺されたことで、1人が死亡、2人がケガをした事故です。5人の作業者による河川の護岸工事の際、作業者A・B・Cの3人がアシナガバチに刺されました。AとBは左手首を刺されたものの、腫れだけで済んだため作業を続行しました。
しかし、その後に左手首を刺されたCは重症化します。所持していたアンモニア水で処置を試みるものの、痛みはひかず、患部を冷やしていた最中に倒れてしまいました。救急車で病院に搬送されましたが、その後に死亡しました。
事故の要因
- Cはハチアレルギーを持っていた
- 半袖で腕を露出していた
- ハチ刺されに対する危険性の認識が薄かった
後になってわかったことですが、作業者Cは5年前に蜂に刺されて入院したことがありました。このときにハチアレルギーを発症しています。ハチアレルギーを持っていると、再度刺されたときにアナフィラキシーショックを引き起こす可能性が高いため危険です。
2.下草刈り中の死亡事故
蜂の種類 | ムモンホソアシナガバチ |
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場所 | 森林 |
被害 | 死亡(死亡者数:1人) |
ムモンアシナガバチと思われる蜂に刺され、1人が死亡した事故です。2人(AとB)で下草刈りの作業をしていた午前10時頃、Aが蜂に刺されました。Aは刺されてから15分後に気分が悪くなったため木陰で横になり、Bはその様子を確認したものの、作業を続行します。
10時半頃にBがAの様子を見に戻ると、Aは口から泡を吹いており、自発呼吸をしていない状況でした。ただちに救急車を呼び、病院に搬送されましたが、病院で死亡が確認されました。
事故の要因
- Aはハチアレルギーを持っていた可能性が高い
- 蜂が小さく発見しづらい種類だった
- ハチ刺されに対する危険性の認識が薄かった
Aは過去に数回、自宅周辺でアシナガバチに刺されたことがあり、じんましんが出た経験があったことがわかりました。このときにハチアレルギーを発症した可能性があります。
また、下草刈りをしていた場所には、小さく発見が難しいムモンホソアシナガバチが生息していており、刺されるまで蜂の存在に気づかなかった可能性もあります。
3.登山中の死亡事故
蜂の種類 | クロスズメバチ |
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場所 | 奥秩父(豆焼沢) |
被害 | 死亡(死亡者数:1人) |
80歳のベテラン登山家であるAがクロスズメバチと思われる蜂に刺され、死亡した事故です。Aは息子と友人2人の4人のパーティで沢を下りることにしました。最初は沢の上部にある作業道を進んでいましたが、進んだ先の道が不明瞭になったため、沢に直接下りることを選択します。
斜面を進んでいる途中、Aが誤ってクロスズメバチの巣を踏み、複数匹に刺されたことを友人2人が確認しています。その後、Aの容体は悪くなりヘリコプターで病院に搬送されましたが、死亡しました。死因はハチ毒によるアナフィラキシーショックでした。
事故の要因
- Aはアナフィラキシーショックの可能性が高い人物だった
- 蜂の巣を踏み、複数匹に刺された
- ハチ刺されに対する危険性の認識が薄かった
Aはアナフィラキシーショックのリスクが高まる、次の3つの因子(リスクファクター)にいずれも該当していました。
- 高齢
- 前回の蜂刺されから1年以内
- 前回の蜂刺されで何らかの全身反応があった
これらの因子に当てはまる場合、蜂に刺されるとアナフィラキシーショックで重症化する可能性が高いといえます。
また、クロスズメバチは土の中に巣を作り、巣穴以外は外から視認できないため、整備されていない道では誤って踏み抜く可能性があります。1匹あたりの毒性は弱いものの、巣から飛び出してくる大群に刺されれば重症化する恐れがあるため注意が必要です。
4.害虫駆除業者の死亡事故
蜂の種類 | スズメバチ |
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場所 | 千葉県館山市洲宮 茂名川 |
被害 | 死亡(死亡者:1人) |
千葉県館山市の依頼を受けて、茂名川の土手にできたスズメバチの巣を駆除していた害虫駆除業者の1人(以下、A)がスズメバチに刺されて死亡した事故です。この事故に関しては、原因・要因がわかっていません。
Aはプロの害虫駆除業者であり、当日も蜂駆除用の防護服を着用、さらに胸まで高さのある胴長を着用した万全の装備でした。しかし、それでも耳や背中を刺されたようです。可能性としては、以下のようなことが考えられますが真偽は不明です。
- 防護服に穴が開いた
- 着用時に隙間があった
- 布が突っ張ったことで肌に毒針が届いてしまった
5.鉄道沿線の草刈り作業中に起きた死傷事故
蜂の種類 | スズメバチ |
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場所 | 鉄道沿線の土手 |
被害 | 死傷(死亡者数:1人) |
スズメバチに刺されたことで、1人が死亡、2人がケガをした事故です。10月中旬、鉄道沿線の土手の草刈作業中に作業者A・B・Cの3人がスズメバチに刺されます。AとBがケガで済んだものの、Cは失神状態に陥り、救急車で運ばれましたが刺されてから2時間後に死亡しました。当時の服装は、ワイシャツ・作業ズボン・安全靴・ヘルメットでした。
事故の要因
- スズメバチが攻撃的なシーズンだった
- 腕まくりをしていた
- Cはハチアレルギーだった可能性が高い
10月中旬はスズメバチの新女王蜂がオス蜂と交尾をおこなう時期に重なり、働き蜂が巣の周辺の防衛を強化しています。巣に近づくだけでも大群に刺される恐れがあるため要注意です。
6.高校駅伝の練習中に22人が刺された事故
蜂の種類 | スズメバチ |
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場所 | 大分県九重町の町道 |
被害 | ケガ |
大分県九重町が主催する駅伝大会のコースを、高校生が試走していた際にスズメバチに襲われ、22人が刺された事故です。幸い、刺された22人は命に別状はありませんでしたが、大会は中止されました。
スズメバチは、コースのそばにある林に営巣していました。コースの下見の段階では発見できなかったようです。
事故の要因
- スズメバチが攻撃的なシーズンだった
- 声や足音がスズメバチを刺激した可能性
- 巣が肥大化しやすい林が近かった
事故が起きたのは2022年9月23日で、女王蜂とオス蜂が交尾をおこなう時期に重なります。巣の周辺で防衛体制をとっている働き蜂が攻撃的なシーズンです。そこに、大会のために訪れた人々の声や足音が刺激となって攻撃を誘発した可能性があります。
また、林の中はスズメバチにとって好条件で、巣が肥大化しやすい場所です。巣から少し離れた場所でも、巡回中の働き蜂が巣から仲間を呼ぶ可能性があります。
7.公道脇の草刈り作業中に起きた死亡事故
蜂の種類 | ハチ(種類不明) |
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場所 | 公道脇 |
被害 | 死亡(死亡者数:1人) |
公道脇で刈払機を用いて草刈り作業をしていた作業員1人(以下、A)が死亡した事故です。Aはまず、左腕を蜂に刺されました。市販薬を塗りはしましたが、そのまま作業を続けていたところ、3時間ほど経ったときに再び刺されました。
すると今度は、市販薬を塗っても回復せず重症化します。せき・嘔吐の症状があらわれ、病院に搬送されましたが死亡しました。死因はアナフィラキシーショックでした。
事故の要因
- 蜂の威嚇音が聞こえなかった
- ハチ刺されに対する危険性の認識が薄かった
事故当時は刈払機を使用していたため、エンジン音で蜂の威嚇音が搔き消されたと考えられます。蜂は巣を刺激されない限り、人と遭遇してもすぐに攻撃してくるわけではありません。まず威嚇音を鳴らし、それでも近づく外敵に対して攻撃します。
8.高山トレイルイベント中の刺傷事故
蜂の種類 | キイロスズメバチ |
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場所 | 岐阜県高山市 |
被害 | 刺傷 |
10月8日に、岐阜県高山市で開催された登山道を走る大会(トレイル大会)で起きた事故です。参加選手248人のうち42人がスズメバチの大群に襲われ、11人が病院へ搬送されましたが、いずれも軽症でした。ただし、3人は大事をとって入院しています。
事故後の調査で、近くにキイロスズメバチの巣があることがわかりました。選手を刺した蜂がキイロスズメバチだった場合、全員が軽症で済んだことは幸運だったともいえるでしょう。日本において最も人の殺傷件数が多い蜂だからです。
事故の要因
- スズメバチが攻撃的なシーズンだった
- 点検の際に巣を発見できなかった
10月前半のスズメバチが攻撃的なシーズンに、蜂が生息しやすい山間で大会が開かれたため、遭遇率は高い状況でした。事前の点検の重要性がわかります。
ハチ刺されの事故例からわかる注意点と対策

事故例からわかる注意点と対策を解説します。
ハチアレルギーの有無を確認する
過去に蜂に刺されたことがある場合、ハチアレルギーを持っている可能性があります。ハチアレルギーを持っていると、クロスズメバチなどの微弱な毒しか持たない蜂に刺されても、アナフィラキシーショックを引き起こす恐れがあるため要注意です。
ハチアレルギーがある人は、蜂がいそうな場所に行くときはエピペンを持参する必要があります。医師に処方してもらう注射器であるため、必ず事前に医師へ相談しましょう。アナフィラキシーショックの詳細は次の記事をご覧ください。

1度刺されたらすぐに病院に行く
1度刺されて大丈夫だったからといって、作業を再開したり、別日に蜂がいそうな場所に行くのはNGです。2回目に刺されたときに、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。また、オオスズメバチなど強力な毒を持つ蜂に刺された場合、1回刺されただけでも重症化するケースがあるため要注意です。
1度刺された時点で病院にいけば、蜂毒によって重症化するリスクを避けられるほか、ハチアレルギーになったか否かを検査できます。ハチアレルギーの診断があれば、次回から事前にエピペンを処方してもらえるので、必ず病院へ行きましょう。
蜂が攻撃的なシーズンに注意する
攻撃力の高いスズメバチとアシナガバチは7~9月に働き蜂の数が最大になり、9~10月に攻撃性がピークになります。この時期は河川の近くや森林など、蜂が営巣しやすい場所には近づかないようにしましょう。
どうしても行く必要があるときは、防護服を着用するのがベストです。防護服の入手が難しい場合でも、厚手の長袖・長ズボン・二重にした軍手・帽子などの防護服相当の服を着用しましょう。暑いからといって腕まくりをするのはNGです。

音に注意する
蜂は外敵を見るなり攻撃するわけではなく、まずは警告音を発するため、刺される前にその場を立ち去ることも可能です。スズメバチは顎をカチカチと鳴らし、ミツバチは羽音(シマリング)を鳴らします。
しかし、イヤホンをしていたり、稼働させている機械の音が大きかったりすると気づけません。蜂がいる可能性の高い場所に行くときは、イヤホンの装着は避けましょう。機械を稼働させる必要がある作業は、できる限り、危険な蜂が死亡する11月下旬~3月におこなうことをおすすめします。

蜂の事故事例を教訓に、対策を講じよう
蜂による事故は、特に夏から秋にかけて多発しやすく、わずかな油断が大きなリスクにつながることがあります。草むらや森などを歩く際は、蜂や蜂の巣がある可能性を踏まえて、蜂を刺激しないように注意を払いましょう。
また、刺された場合の適切な対処法を知っておくなど、万が一に備えた準備も欠かせません。アナフィラキシーショックのリスクがある場合は、エピペンを用意しておきたいところです。事前準備によって回避できる事故も多いため、ぜひ本記事を参考に、安全対策を心掛けましょう。
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