フタモンアシナガバチは腰に黄色の丸い斑紋が2つある蜂です。頭の形や斑紋・線の違いでフタモンアシナガバチとトガリフタモンアシナガバチに分けられます。本記事では、この2種類の基本情報と見た目や分布の違いを詳しく解説します。
フタモンアシナガバチ(本土亜種)の基本情報
分類 | ハチ目スズメバチ科アシナガバチ亜科 |
体長 | 働き蜂:14~16mm
オス蜂:15~16mm 女王蜂:14~18mm |
見た目の特徴 |
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性格 | 比較的おだやか |
分布 | 渡島半島(北海道)、奥尻島(北海道)、本州、四国、九州、津島、大隈諸島 |
毒性 | 強くない |
巣の場所 | 木の幹、藪(やぶ)の中、軒下、生垣 |
巣の育房数 | 働き蜂が生まれる前:30~40房
ピーク時:300~1,000房 |
幼虫の捕食対象 | 蝶・蛾の幼虫、カメムシ、クモ、バッタ
※いずれも成虫が肉団子にしたもの |
成虫の捕食対象 | 花の蜜、樹液、ヤブガラシ、アブラムシの甘露 |
活動時期は3~11月
女王蜂が3~4月に冬眠から目覚め、4~5月にかけて営巣を開始します。働き蜂の羽化が始まるのは6~7月です。アシナガバチの数が増え、刺される被害が多くなるので注意しましょう。
8~9月で巣の大きさがピークを迎え、働き蜂の数が最大になります。新女王蜂も誕生する時期です。その後、10~11月にかけて旧女王蜂が死に、10月後半~11月に新女王蜂は越冬の場所を求めて引越します。
営巣場所
日本国内の幅広い地域に分布しており、明るく開けた場所を好んで営巣します。木の幹や藪などの自然環境が中心ですが、軒下や生垣などの人の生活圏で営巣するケースもあります。
なお、与論島や沖縄島に住むフタモンアシナガバチが基亜種(※)です。本土亜種よりも黄色みが強い見た目をしています。
(※)基亜種:最初に新種として記載された種類
巣の特徴
傘のような形で、紙のような質感の巣を作ります。巣の色は灰色または茶色がかっており、サイズは10~20cmです。接着している場所から横向きになるように巣作りするケースが多くみられます。
危険性
性格は比較的おだやかで、刺激しない限りは襲ってくることはまずありません。毒性も強くなく、痛みやかゆみも軽度です。ただし、2回以上刺されればアナフィラキシーショックのリスクはあります。
また、10~11月は越冬のための場所を探している女王蜂が、洗濯物の中にもぐりこむケースがあるため注意が必要です。気づかずに取り込んでしまい、洗濯物をたたむときに刺されることがあります。
捕食対象
幼虫の頃は、成虫が捕獲して肉団子にした昆虫を食べます。自ら捕獲に出向くことはありません。成虫になると花の蜜や樹液、ヤブガラシという植物、アブラムシの甘露などを吸って活動します。
肉団子にされる虫は蝶・蛾の幼虫、カメムシ、クモ、バッタなどです。農作物に食害をもたらす虫が含まれるため、フタモンアシナガバチは農業にとっては益虫といえます。
トガリフタモンアシナガバチの基本情報
分類 | ハチ目スズメバチ科アシナガバチ亜科 |
体長 | 14mm~19mm |
見た目の特徴 |
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性格 | おだやか |
分布 | 北海道(渡島半島以外)、秋田県 |
毒性 | 強くない |
巣の場所 | 河原の草地、カラマツの植林地など |
巣の育房数 | 働き蜂が生まれる前:50~70
ピーク時:50~100 |
幼虫の捕食対象 | 蝶・蛾の幼虫、バッタ |
成虫の捕食対象 | ヤマブドウ、アブラムシ・カイガラムシ・キジラミの甘露 |
フタモンアシナガバチと酷似している蜂です。頭楯(とうじゅん)の先端が尖っているため、トガリフタモンアシナガバチという名称で分類されています。
毒性・攻撃性はフタモンアシナガバチと同様に強くありません。ただし、巣を刺激されると集団で攻撃することがあります。
なお、トガリフタモンアシナガバチは河原や笹薮などの自然環境かつ明るく開けた場所を好むため、人の生活圏で営巣するケースはほとんどないようです。その他の違いは、次の「フタモンアシナガバチとトガリフタモンアシナガバチの違い」で詳しく解説します。
フタモンアシナガバチとトガリフタモンアシナガバチの違い
フタモンアシナガバチとトガリフタモンアシナガバチの違いを詳しく解説します。
見た目の違い
比較項目 | フタモンアシナガバチ | トガリフタモンアシナガバチ |
体長(最大) | 18mm | 19mm |
頭楯 | 丸みがある | 尖っている |
大顎の色 | 黄 | 黒 |
複眼後方の黄筋 | 細い | 太い |
胸の斑紋 | 小さい | 大きい |
二紋の下の黄色い線の数 | 5本 | 4本 |
名称の違いは頭楯の形状によるものです。フタモンアシナガバチは丸みがありますが、トガリフタモンアシナガバチは名前のとおり尖っています。体長は最大サイズにおいては1mmほどトガリフタモンアシナガバチが大きいものの、肉眼で見分けることは難しいでしょう。
見分けるポイントとしては、顎の色と胸の斑紋の大きさ、二紋の下の黄色い線の数がおすすめです。上記の表を参考にしてください。
巣の違い
比較項目 | フタモンアシナガバチ | トガリフタモンアシナガバチ |
育房数 | 働き蜂が生まれる前:30~40房
ピーク時:300~1,000房 |
働き蜂が生まれる前:50~70
ピーク時:50~100 |
巣の場所 | 自然環境、民家 | 自然環境 |
ピーク時の育房数はフタモンアシナガバチの方が多いため、働き蜂の数も多い傾向にあります。トガリフタモンアシナガバチの場合、育房数が最大の100室になることも稀です。
また、フタモンアシナガバチは人の生活圏にも対応していますが、トガリフタモンアシナガバチは自然環境を好みます。遭遇率も含めて、ピーク時の危険性はフタモンアシナガバチが勝るといえるでしょう。
分布の違い
フタモンアシナガバチ | トガリフタモンアシナガバチ |
渡島半島(北海道)、奥尻島(北海道)、本州、四国、九州、津島、大隈諸島 | 北海道(渡島半島以外)、秋田県 |
フタモンアシナガバチ(本土亜種)は日本全国に広く分布していますが、トガリフタモンアシナガバチは渡島半島以外の北海道と秋田県に限られます。
トガリフタモンアシナガバチの分布地域以外で腰に二つの斑紋がある蜂を見かけたら、フタモンアシナガバチと考えられます。
フタモンアシナガバチは刺激しなければ比較的安全
フタモンアシナガバチ、トガリフタモンアシナガバチともに、おだやかな性格で襲ってくる可能性が低い蜂です。見つけても近づかず、遠くから観察する程度に留めましょう。巣を刺激しないことが大切です。
見た目はよく似ており、飛んでいる蜂を見分けるのは困難です。分布地域で目星をつけましょう。しっかり観察したいのであれば、防護服を着用することをおすすめします。