蜂の中ではスズメバチが強者で、ミツバチは弱者というイメージがある人もいるでしょう。たしかに、多くのスズメバチは顎の力が強靭で飛行能力が高く、毒針も強いため、1匹同士で戦えばミツバチには勝ち目がありません。実際にミツバチはスズメバチの捕食対象にされています。
しかし、ミツバチに対抗手段がないわけではありません。巣の壊滅を防ぐために、命をかけた攻防を繰り広げます。本記事では、スズメバチがミツバチを襲う理由からミツバチの防衛手段まで、詳しく解説します。ミツバチとスズメバチの関係を知りたい人はぜひご覧ください。
スズメバチがミツバチを襲う理由

スズメバチの中でミツバチを襲うことが多いのは、キイロスズメバチとオオスズメバチです。キイロスズメバチはミツバチを誘拐し、オオスズメバチはミツバチの巣を襲撃します。その理由は主に次の2つです。
幼虫のエサとなる肉団子の材料にするため
スズメバチは同種以外の虫全般を捕食対象にしています。顎の力や飛行能力、毒針などの攻撃力が高い種類は、ミツバチすらも捕食対象です。ただし、成虫は樹液や果汁などをエサにするため、あくまでも幼虫のためのエサとして狩っているにすぎません。スズメバチの成虫は狩った虫を顎を噛み砕いて肉団子に変え、巣に持ち帰って幼虫に与えます。
なお、幼虫と成虫で食べ物が変わることは珍しくありません。芋虫が葉を食べ、蝶になると花蜜を吸うようになるのと同じです。スズメバチは幼虫のときは肉食ですが、成虫になると花蜜や樹液、果汁のみを食べるようになります。
蜂蜜が成虫のエサになるため
スズメバチの成虫は花蜜や樹液、果汁がメインのエサですが、ミツバチが溜め込んだ蜂蜜を食べることもあります。ミツバチの巣内に侵入できれば、蜂蜜で栄養補給しながらミツバチを肉団子に変えていくという効率的な狩りが可能です。スズメバチにとってミツバチの巣が絶好のエサ場であることがわかるでしょう。
ただし、ミツバチの巣を襲撃できるのはオオスズメバチに限られ、他のスズメバチではほとんどみられません。後述しますが、ミツバチにも防衛手段があるため、オオスズメバチでなければ襲撃が成功しにくいからです。
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オオスズメバチによるミツバチの巣の襲撃手順

オオスズメバチは手順を踏んで、組織的にミツバチの巣を襲撃します。詳しくは次のとおりです。
まずはオオスズメバチ1匹がミツバチの巣の周辺を偵察します。巣の出入口の確認や規模の把握が目的といわれています。この時点で巣内に侵入することはありません。
偵察が完了すると、仲間を呼ぶためのフェロモンを放出します。風向きなどにもよりますが、最大50m程度離れた場所でも、仲間のフェロモンを感知できるようです。
偵察兵のフェロモンを感知した働き蜂が集まってきます。十分な数が集まれば、襲撃準備完了です。
偵察兵の情報に基づき、集団で巣の出入口に向かいます。出入口が小さく通れそうもないときは、強靭な顎で巣材を齧り取って拡大します。
複数匹で侵入すると、立ち向かってくるミツバチを顎で噛み砕きながら進撃します。成虫・蛹・幼虫を肉団子に変えていき、途中で蜂蜜を食べて栄養補給することもあるようです。ミツバチが防衛に成功しなければ、巣が全滅することもあります。
ミツバチの防衛手段は熱殺蜂球と窒息スクラム

ミツバチ単独の攻撃力ではスズメバチに適いませんが、集団で防衛する手段は持っています。ここでは、防衛手段の「熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)」と「窒息スクラム」を解説します。
ニホンミツバチの「熱殺蜂球」
熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)は、外敵に集団で群がって蒸し殺すという防衛手段です。群がる姿が球のように見えるため、熱殺蜂球という名称がついています。なお、日本には野生のニホンミツバチと養蜂のセイヨウミツバチが生息していますが、熱殺蜂球を用いるのはニホンミツバチだけです。
外敵に群がるだけでは大した熱になりませんが、羽と胸の筋肉を震わせることで熱を発生させます。これによって、蜂球の中心部は47~48℃の高温に達します。ミツバチは50℃近くまで熱に耐えられますが、スズメバチは44~46℃が致死温度です。この温度差によってスズメバチが死亡します。
ただし、ミツバチも完全にノーダメージというわけではありません。高温にさらされたミツバチの寿命は縮みます。また、蜂球の中心部でスズメバチに接触しているミツバチは、噛み殺されることもあります。まさに命がけです。
セイヨウミツバチの「窒息スクラム」
セイヨウミツバチもスズメバチに襲われたときは蜂球を形成しますが、中心部の温度はスズメバチの致死温度に達しません。そのため、以前はセイヨウミツバチの防衛力は脆弱であると考えられていました。しかし、近年の研究によって「窒息スクラム」という技を見せることが明らかになっています。
窒息スクラムは複数のセイヨウミツバチがスズメバチを取り囲み(スクラム)、腹部を圧迫して窒息死させる仕組みです。窒息させるには1時間近くかかるため、熱殺蜂球ほどの威力ではありませんが、命がけで戦ってスズメバチを撃退しています。
ミツバチのその他の防衛手段

熱殺蜂球と窒息スクラムはミツバチの必殺技ですが、それ以外のスズメバチ対策も実施しています。代表的な対策を3つ紹介します。
巣の出入口を狭くする
ミツバチとスズメバチではミツバチの方がはるかに小さいので、大きなスズメバチが侵入できないように巣の出入口を狭く設計します。集団で襲撃されると出入口を拡大されてしまいますが、時間稼ぎとしては有用です。また、出入口付近で熱殺蜂球や窒息スクラムを繰り出し、スズメバチを撃退できれば巣内の破壊を防げます。
警戒フェロモンを放出する
スズメバチの接近を察知したミツバチは警戒フェロモンを放出し、仲間に危険を知らせます。このフェロモンによって、巣の中のミツバチが一斉に防御態勢を取り、スズメバチ立ち向かうシステムです。
しかし、警戒フェロモンを放出する役割を担ったミツバチは、その場で絶命します。ミツバチの警戒フェロモンは毒針を放ったときに出るもので、毒針を放つと内臓も一緒に抜けて死んでしまうからです。自ら犠牲になることで集団を守ろうとする、社会的な習性といえます。
集団でスズメバチを押し返す
巣門や隙間から侵入しようとしたスズメバチにミツバチが群がり、集団で押し返すことがあります。スズメバチが侵入を諦めてくれれば、それ以上の被害拡大を防げるでしょう。
なお、スズメバチに対しては効果を期待できませんが、「ウイング・スラッピング」という防衛手段も持っています。アリなどの小さな虫を、羽ばたきによる風圧で遠ざける方法です。
ミツバチとスズメバチは巧妙な戦略合戦を繰り広げている
スズメバチとミツバチは蜂の仲間でありながら、捕食・被食の関係にあることがわかりました。スズメバチは偵察によって侵入・捕獲の成功率を高め、ミツバチは団結と自己犠牲によって巣を守ります。「熱殺蜂球」「窒息スクラム」といった独自の技は、進化の過程で生まれた巧妙な生存戦略の一例といえるでしょう。
なお、ミツバチを攻撃するスズメバチは養蜂にとっては敵といえます。スズメバチの襲撃によって、1年かけて集めた蜂蜜や溜め込んだローヤルゼリーが失われれば大打撃です。ミツバチの個体数も減るため、その後の採蜜活動にも影響します。スズメバチへの防衛をミツバチだけに任せるわけにはいきません。
養蜂場では養蜂箱周辺に、スズメバチが通過できない網目の防虫ネットを張るなどの対策を講じています。また、近くにスズメバチの巣ができると襲撃が頻発する恐れがあるため、駆除も重要な対策です。スズメバチの営巣初期段階で駆除できるよう、定期的な点検もおこなわれています。




